まちの未来を、まちの人が語る〜E-TOKO深草という持続可能な地域づくり【前編】〜
「地域の魅力を発信する」。
言葉にするとシンプルですが、その先にあるゴールは何でしょうか。
京都市伏見区·深草エリアで展開されている「E-TOKO深草」は、地域の魅力を伝えるだけではなく、人と人をつなぎ、地域の担い手を育てていくプロジェクトです。
地域の人が自らまちを取材し、その魅力を発信する「地域ライター」。
地域の事業者や住民がつながる「E-TOKO深草 meetup!セミナー」。
そうした一つひとつの取り組みから、新しい出会いや活動が生まれています。
始まりは、まちから人の姿が消えたコロナ禍でした。
そこから約5年。
行政と民間企業、そして地域の人たちが一緒になって取り組みを続けるなかで見えてきたのは、地域の魅力を「誰かに伝えてもらう」のではなく、そこに暮らす人自身が見つけ、語り、次の人へとつないでいくことの大切さです。
今回は、E-TOKO深草に携わる京都市伏見区役所深草支所 地域力推進室の北村さん、岡野さんと、プロジェクト立ち上げから関わるタカラサプライコミュニケーションズ株式会社(TSC)の三山口が、これまでの歩みを振り返りながら、持続可能な地域づくりとクリエイティブの可能性について語り合いました。
E-TOKO深草とは

深草支所とTSCが連携し、2021年からスタートした地域プロジェクト。京都のローカルメディア「デジスタイル京都」で地域の魅力を発信するほか、地域ライターの育成、地域の事業者などが講師となる「E-TOKO深草 meetup!セミナー」など、さまざまな角度から深草の魅力を発信しています
(E-TOKO深草のウェブページはこちら)。
地域の魅力発信の先にあるもの
伏見稲荷にさえ、人がいなかった。
三山口
E-TOKO深草が始まった2021年は、ちょうどコロナ禍の真っただ中でした。今では想像しにくいですが、当時は伏見稲荷にさえ人がほとんどいないような状況でしたよね。
北村さん
そうですね。深草に限らず京都市全体で、飲食店や地域の皆さんのところへリアルに足を運ぶことが難しくなっていました。「地域を元気にしたい」という機運が高まっていた時期だったと思います。
もともと人口減少などの課題もありましたから、深草にもっと人に来てもらいたい、地域の魅力を知ってもらいたいという思いもありました。
そこからテイクアウトマーケットや謎解きイベントなど、地域に人を呼び込む取り組みが始まっていきました。まず深草に来てもらい、魅力を感じてもらう。そして、ゆくゆくは「ここに住みたい」と思ってもらう。そうしたことも、この取り組みの大きな目的だったと思います。
三山口
当時は伏見稲荷を訪れる観光客がいないので、そこから深草のまちへ流れてくる人もいない。まちにいるのは、本当に地域の方が中心でした。
でも、だからこそ、地元の人に改めて地元の良さを知ってもらう機会になった面もあったと思います。
例えば若い人なら、仕事や学校から帰ってきたときに「深草でご飯を食べよう」という発想は、それまであまりなかったかもしれません。京都駅や河原町で食べて帰る。でも、テイクアウトマーケットなどをきっかけに、「地元にこんなおいしいお店があったんだ」と気づく。
地域の外へ魅力を伝えるだけではなく、
「地域に暮らしている人が、自分たちのまちの魅力を再発見する」。
そこもE-TOKO深草の一つの原点だったのかもしれません。
駅をひとつ越えるきっかけをつくる

三山口
もう一つ印象的だったのが、深草の中でも、それぞれのエリアが意外と分かれていたことです。
稲荷、龍谷大前深草、藤森、墨染と駅がありますが、普段暮らしていると、隣の駅のお店へわざわざ行く機会って、それほど多くなかったりしますよね。
でも、取り組みを通じて横のつながりができると、「隣の駅にこんなお店があるんだったら行ってみようか」となる。
ほんの一駅ですが、その一駅を越えるきっかけが生まれたことも面白かったですね。
「深草ファン」を増やしたい
三山口
「地域の魅力発信」というと、どうしても記事を何本つくったとか、どれだけの人に見てもらったかという話になりがちです。
でも、E-TOKO深草が本当に目指しているところは、その先にありますよね。
北村さん
正直に言うと、僕自身も「この状態になったらゴールです」と明確に言えるものがあるわけではありません。取り組みを続けながら、「どうなったらゴールなんだろう」と考えているところもあります。
ただ、一つ思っているのは、TSCさんとの連携を通じて深草の魅力を発信し、
「深草ファン」を増やしていくこと。
そして、深草の人たちが主体となって地域を活性化していけるように、私たち行政がサポートしていく。それが一つの役割なのかなと思っています。
岡野さん
ライター講座に参加される方を見ていても、もともと深草に愛着を持っている方が多いんです。
でも、講座を受けて実際に取材や執筆をすることで、その愛着がさらに深まっているように感じます。
三山口
何年か継続して活動してくださっているライターさんもいますよね。
最初は「深草が好き」というところから始まっても、発信を続けるうちに、書くこと自体への楽しさや責任感も生まれてくる。
「自分が好き」で終わるのではなく、「この魅力を誰かに伝えたい」へ変わっていく。
それも、すごく大きな変化だと思います。
ライター講座が育てているのは「書く人」ではない
まちの魅力を伝える“語り手”を増やす取り組み
地域ライターは、自由でいい。

三山口
E-TOKO深草の特徴の一つが、プロのライターだけではなく、地域の方自身が記事を書く「地域ライター」の存在です。
なぜ「地域の人が書く」という形を大切にしているのでしょう。
北村さん
ライター講座では、プロのライターさんやカメラマンさんに講師をしていただいています。
プロのライターの場合、仕事として依頼されるので、「こういう記事を書いてください」「こういう切り口でお願いします」と求められることがありますよね。
でも、地域ライターは自由でいいと思うんです。
本当に、いい意味で好きにやってもらったらいい。
地域に住んでいる人や深草を好きな人だからこそ見つけられるテーマが、絶対にあると思っています。
だから、お店の紹介だけでなく、大学のことでも、琵琶湖疏水でもいい。子育て、歴史、医療、福祉など何でもありなんです。
三山口
実際、私たちだけでは見つけられない場所やテーマを発見してくださるんですよね。
プロが取材テーマを考えると、どうしても「多くの人が興味を持ちそうな場所」「分かりやすく魅力が伝わる場所」を選びがちです。
でも地域の人は、まったく違うところにアンテナを張っている。
「ここ、デートスポットですよ」

北村さん
印象に残っているのが、大岩山の展望所の記事です。
地域の方から「ここから見える夜景が、デートスポットにオススメですよ」と言われて。
三山口
そうなんですか!(記事が気になる方はこちら)
北村さん
「昔、バイクで登って夜景を見た」と。
僕たちでは、なかなか出てこない切り口ですよね。すごく斬新で、感心しました。
岡野さん
私自身、京都市には住んでいましたが、仕事をするまで深草とはあまり縁がありませんでした。
だから深草と聞いて思い浮かべるのも、龍谷大学や伏見稲荷、ラーメン店……というくらいで。
もし私が何も知らない状態で記事を書くことになったら、かなり限られた切り口になっていたと思います。
地域の皆さんが書いてくださるからこそ、想定外の、ニッチなところまで見つけてもらえる。それがすごく面白いです。
北村さん
僕も、着任した当初は「地域ライター」というと、飲食店や店舗を取材するイメージが強かったんです。
でも実際には、歴史もあれば福祉もあるし、医療もある。身近なところに本当にたくさんの題材があります。
ライターさんが、それぞれ自分の興味のあるものを見つけて、いい意味で好き勝手に深草の魅力を取り上げて発信してくれる。
それが本人のやりがいにもなって、その記事を読んだ別の人が「自分もやってみようかな」と思う。
そうやって少しずつ火がついていくような、いい循環ができていると思います。
プロが「正解」をつくるのではなく、魅力を引き出す
三山口
一方で、地域の方に全部お任せしているわけではありません。
ライター講座では、プロのライターやカメラマンの視点から、原稿や写真を見ながら「もう少しこうすると伝わりやすくなりますよ」とアドバイスしています。
1回目、2回目と書いていくうちに、皆さんの記事や写真のクオリティが上がっていくのが分かります。
でも、こちらの価値観に合わせて記事をつくり替えてしまったら、地域ライターに書いてもらう意味がなくなってしまう。
北村さん
そうですね。
「てにをは」のような文章上の修正はあるかもしれませんが、その人が何を大切にしているのか、その人ならではの思いは、もともとの原稿から十分に伝わってきます。
だから、そこはできるだけ大事にしたい。
一人ひとり個性があって、どの記事にも読み応えがありますし、僕たちにとっても新しい発見があります。
受講生から「先輩ライター」へ

岡野さん
私がすごくいいなと思っているのが、ライター同士のつながりです。
ライター講座は毎年新しい方を募集していますが、以前の受講生が新しく参加した方に、活動についてアドバイスしてくださることがあります。
その先輩ライターの方も、最初は何も分からない状態から講座を受けた一人なんですよね。
三山口
「先輩から後輩への伝授」みたいになっていますよね。
講座が終わったら一年で関係も終了、ではなくて、ライターのLINEグループも続いている。
誰かが質問を投げかけると、経験のある人がアドバイスする。
そうやって次の人へ経験がつながっていくのは、すごくいい循環だと思います。
岡野さん
今年参加された方が、今度は来年参加する方の相談に乗るかもしれない。
そういう未来が見えてくると、すごくワクワクします。
育っているのは、「地域の未来を語る人」
三山口
持続可能なコンテンツにしていこうと思ったら、地域ライターの皆さんは、もう欠かせない存在になっていると思います。
どれだけ魅力のある地域でも、私たちだけで毎年取材を続けていたら、いつか「もう紹介するところがない」と思ってしまうかもしれません。
でも、実際にそこで暮らし、日々まちを見ている人たちは違います。
大岩山を「デートスポット」と見る人がいる。
歴史に注目する人がいる。
医療や福祉に関心を持つ人がいる。
一つのまちの中に、それぞれ違うアンテナを張っている人がいる。
その人たちが、自分で魅力を見つけ、自分の言葉で誰かに伝えていく。
そして今度は、その発信を見た人がまちに興味を持ったり、「自分もやってみたい」と思ったりする。
E-TOKO深草のライター講座で育っているのは、単に「記事を書ける人」ではないのかもしれません。
「自分たちのまちを、自分たちの言葉で語る人」。
そして、その言葉を次の誰かへ手渡していく人。
そんな地域の“語り手”が少しずつ増えていくことが、深草というまちの未来を支える土壌になり始めています。
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後編では、地域の事業者や住民が「先生」となってまちの魅力を伝える「E-TOKO深草 meetup!セミナー」を通して、人と人とのつながりがどのように広がっているのかをご紹介します。