まちの未来を、まちの人が語る〜E-TOKO深草という持続可能な地域づくり【後編】〜
前編では、E-TOKO深草が始まった背景と、地域の人自身がまちの魅力を発信する「地域ライター」の取り組みについてご紹介しました。
後編では、地域の事業者や住民が「先生」となる「E-TOKO深草 meetup!セミナー」を通して生まれているつながりと、そこから見えてきたクリエイティブの役割、そしてE-TOKO深草が目指すこれからについて語ります。
「参加する人」から、「一緒につくる人」へ
「こんなお店があったんだ」を、リアルに体験する

三山口
ライター講座が「地域の魅力を語る人」を増やす取り組みだとすると、もう一つの大きな柱が「E-TOKO深草 meetup!セミナー(以下「meetup!」と表記)」です。
こちらは、どんなところから始まったのでしょう。
北村さん
コロナ禍にはテイクアウトマーケットなどを実施していましたが、少しずつ状況が落ち着いて、実際にまちを巡るイベントもできるようになってきました。
そこで、深草にある店舗や事業所をリアルに体感してもらい、「深草にはこんなお店があるんだ」「こんな事業所があるんだ」と知ってもらおうと始まったのがmeetup!セミナーです。
初年度から地域の企業や団体の皆さんに協力していただいて、40を超えるセミナーが集まりました。
参加者だった人が、次は「先生」になる
三山口
何年か続けていると、面白い変化も出てきていますよね。
北村さん
そうですね。すごくうれしかったのが、最初はセミナーに参加する側だった方が、「こんなことをやっているなら、私も出てみようかな」と思ってくださったことです。
「自分にも得意なことがあるので、今年は出展してみました」という方が実際に出てきています。
ほかの出展者さんから話を聞いて「自分もやってみよう」と思ったり、別の地域プロジェクトに関わっている方が参加してくださったり。
一つの取り組みから枝葉が伸びていくように、少しずつ広がっていることを感じます。
岡野さん
参加者アンケートを見ていても、満足度はとても高いです。
出展者の皆さんは準備も大変だと思うのですが、「新しい気づきを得られた」という声がありますし、meetup!をきっかけに出展者同士が交流して、コラボレーションにつながった例もあります。
そういうところも、やっていて良かったなと思う部分です。
北村さん
「地域の魅力に触れることができた」「知らなかったお店を知ることができた」という参加者の声だけではなく、出展者側からも「営業につながった」「横の連携ができた」「地域に貢献できた」という声をいただいています。
三山口
この「横のつながり」は大きいですよね。
同じ商店街の中なら、もともと会合などを通じて交流があります。でも商店街をまたいだり、そもそもそうした組織に所属していなかったりすると、同じ深草で活動していても意外と接点がない。
一店舗だけで発信できる範囲にも限界があります。
一つひとつのお店ではなく、まち全体で魅力を伝えていく。
その団結感は、meetup!ならではだと思います。
行政は「主役」ではなく、裏方でいい
三山口
ほかの地域の方にmeetup!のお話をすると、「それ、すごくいいですね」と言っていただくことが増えました。
一方で、最近ちょっと思うんです。
同じ仕組みを別の地域に持っていけば、そのまま同じようにできるのかな、と。
深草の皆さんって、そもそもの地域への熱量がかなり高いですよね。
北村さん
それは僕も感じます。
よく「地域コミュニティが衰退しているから、行政が何かしなければ」という話になりますが、深草で仕事をしていると、僕自身はそこまで悲観的ではありません。
行政があれこれ手を加えなくても、地域の方が自主的にどんどん動いてくださる。
meetup!には、それがすごく表れていると思います。
だから、僕たち行政は裏方に徹するくらいでいいのかもしれません。
クリエイティブは、「ものをつくる」だけじゃない。
知らない人にも、届く形にする

北村さん
E-TOKO深草の取り組みがここまで続いてきたのは、TSCさんの力もすごく大きいと思っています。
地域の皆さんにはもともと熱意があります。
そこにデジスタイル京都という情報発信のツールがあり、ライター講座やmeetup!という仕掛けがある。
そういう枠組みを一緒につくってもらっていることが、この事業の要になっていると思います。
岡野さん
私は昨年入庁してからこの事業に関わるようになりましたが、最初にmeetup!のパンフレットを見たとき、「すごく見やすいな」と思いました。
実際に「このパンフレットを見て参加しました」という方もいます。
私自身も、それまで深草との縁があまりなかったので、最初はデジスタイル京都の記事を読んで深草のことを勉強しました。
地域のことを知らない人でも入りやすくて、魅力を知ることができる。そういうところにも価値を感じています。
三山口
パンフレットも、最初から今の形だったわけではないんです。
「もう少し大きくしてほしい」「文字を読みやすくしてほしい」といった皆さんの声を聞きながら、毎年少しずつ改善してきました。
私たちは印刷会社をルーツに持つ会社でもあるので、老若男女を問わず「どうすれば伝わるか」ということは大切にしています。
格好いいものをつくることだけがデザインではない。
届けたい人、きちんと届く形に編集する。
それもクリエイティブの役割だと思っています。
「深草が好き」が、次の人へつながっていく
すぐに「移住」につながらなくても

三山口
E-TOKO深草が始まった背景には、深草を知ってもらい、訪れてもらい、最終的には「ここに住みたい」と思う人を増やしたいという思いもありました
とはいえ、記事を一つ読んだからといって、すぐに移住につながるわけではありません。
今、実際に感じている変化はありますか。
北村さん
移住・定住というところまで考えると、確かに長い道のりです。
でも、僕自身が深草支所に着任してから、年々深草への愛着が高くなっているんです。
meetup!には深草以外の地域からもたくさんの方が来てくださっていますし、僕自身も休日には子どもを連れてセミナーへ参加しています。
夏祭りにも家族で行きます。
職員として関わり始めましたが、そういう意味では僕自身も今では「深草を愛する関係人口(※)」の一人なのかもしれません。
※関係人口とは:移住した「定住人口」でも、観光に訪れる「交流人口」でもなく、地域と継続的に関わる人々のこと。地域のファンとして応援したり、活動に参加したりすることで、人口減少や担い手不足といった地域課題の解決につながる存在として注目されている。
岡野さん
移住や定住には時間がかかりますが、ライター講座やmeetup!は、まさに関係人口を増やすきっかけになっていると思います。
meetup!は参加者数も増えていますし、今年度はセミナー数も過去最高になりました。
深草の外にいる人にも、深草を知ってもらったり、好きになってもらったりする勢いが、少しずつ高まっているように感じます。
太鼓をたたいたら、「保存会に入りたい」が生まれた
北村さん
店舗や事業者だけでなく、地域でまちづくりに取り組んでいる方がたくさん参加してくださるのも、meetup!の面白いところです。
例えば、藤森太鼓の体験は毎年人気で、すぐ満席になるようなコンテンツです。
そこで初めて太鼓を体験して、「自分も保存会に入ってみようかな」と思った方が何人かいらっしゃると聞きました。
セミナーに参加する。
地域の文化を知る。
実際に体験する。
そして今度は、自分がその文化を支える側になるかもしれない。
これも、一つの「ファンの循環」だと思っています。
三山口
子どもが楽しめるセミナーが多いことも、とても大事だと思います。
子どもの頃から「このまち、好きやな」と思える経験があることって、将来その地域に住み続けたり、一度外へ出ても戻ってきたりするうえで、大きいと思うんです。
以前、深草への移住者を取材したときにも、一度は仕事などで外へ出たけれど、結婚や子育てをきっかけに深草へ戻ってきたという方がいました。
子どもの頃から地域の人との関係の中で育ったからこそ、「自分の子どももこのまちで育てたい」と思う。
meetup!で地域ならではの文化や人に出会うことも、そんな記憶の一つになっていくのかもしれません。
理想は、E-TOKO深草がなくても動き続けること

三山口
では、この取り組みを続けた先に、どんな深草になっていたら理想でしょう。
北村さん
もし将来こうしたプラットフォームがなくなったとしても、地域の皆さんが自分たちで深草の魅力を発信して、行政が働きかけなくても地域主導でまちをつくっていける。
そんな状態が、一つの理想なのかもしれません。
岡野さん
コロナ禍もそうでしたが、この先、世の中で何が起こるかは分かりません。
だから、事業そのものがあるかどうかにかかわらず、深草を好きな人たちが自分たちで発信したり、人と交流する機会をつくったりできる。
そんな土壌をつくることができたらと思います。
「次は私たちが」と思えるまちに
三山口
meetup!を見ていると、若い方の参加も多いですよね。
地域の取り組みをずっと同じ人たちだけに任せるのではなく、子どもたちや若い世代がそれを見て、「次は私たちがやろう」と思う。
E-TOKO深草が、その世代交代を少し後押しする存在にもなれたらと思います。
北村さん
自分が子どもの頃に、地域の人がこんなことをやってくれた。
だから今度は自分もやってみよう。
そんなふうに思ってもらえたらうれしいですね。
岡野さん
子どもたちにとっては、meetup!での出会いが将来につながることもあるかもしれません。
医療や保育、福祉などの体験をして「こんな仕事に就きたい」と思うかもしれない。
仕事でなくても、太鼓のような地域の活動を知って、新しい趣味や生きがいが見つかるかもしれない。
いろいろな可能性に出会える場所になったらいいなと思います。
「好き」が循環するまちへ

地域の魅力を発信する記事から始まり、地域ライターが生まれる。
地域ライターが見つけた人や活動が、新しい記事になる。
記事を読んだ人がまちへ出かけ、meetup!で地域の人と出会う。
参加する側だった人が、次は自分の得意なことを伝える側になる。
子どもの頃に地域で楽しい経験をした人が、いつかその地域を支える側になるかもしれない。
E-TOKO深草で少しずつ生まれているのは、そんな小さな循環です。
行政や企業が地域を「盛り上げる」のではなく、もともと地域にある人の思いや魅力を見つけ、つなぎ、伝わる形にする。
そしていつか、その仕組みさえなくても、地域の人たち自身が新しいつながりを生み出していく。
クリエイティブの成果は、つくった記事やデザインそのものではなく、そこから誰かの気持ちが動き、次の行動が生まれることなのかもしれません。
「このまちが好き」。
そんな一人ひとりの思いが次の誰かへ手渡されながら、深草のまちは、これからも少しずつ育っていきます。